石橋正二郎の美術分野における事績において、石橋文化センターの石橋美術館が地域レベルの、ヴェネツィア・ビエンナーレが国際レベルの貢献とするならば、国レベルの貢献といえるのが東京国立近代美術館の新築寄贈です。
東京国立近代美術館は1952年に東京の京橋に開館しましたが、手狭で、早くから移転の必要に迫られていました。移転の最適地として挙げられたのは皇居外周の北の丸代官町の国有地。しかし、過去の閣議決定でここには施設を建設しない方針が定められていました。
東京国立近代美術館の評議員を務めていた正二郎はこれらの事情を知り、北の丸代官町に建設が許されるならば私財を投じて美術館を新築し、国に寄贈することを申し出ました。当初、閣議決定は絶対とされたため実現は困難と思われましたが、正二郎の熱意や、小学校時代からの友人で時の法務大臣の石井光次郎(石橋財団二代目理事長)の尽力もあり、1966年に建設の閣議決定が行われました。
谷口吉郎の設計による建物は1967年に起工し、2年以上の工期をかけて1969年に竣工、正二郎はこれを国へ寄贈しました。
正二郎はその生涯に4つの美術館をつくりました。
ブリヂストン美術館、石橋美術館、ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館、東京国立近代美術館——建設の経緯はそれぞれ違いますが、いずれの美術館も、美術の楽しみを多くの人とともにしたい、という正二郎の願いの表れといえます。